脳卒中歩行リハのための6つの必須評価【カットオフ値や関連指標も紹介】

セラピスト向け
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脳卒中後の歩行リハビリテーションは、患者さんの日常生活の質を向上させるために重要な役割を果たします

しかし、歩行リハビリテーションの効果を評価するためには、どのような検査や測定を行えばいいのでしょうか?

この記事では、脳卒中歩行リハで標準的に行うべき評価を6つ紹介します

これらの評価は、患者さんの歩行能力やバランス能力、運動機能などを客観的に把握するのに役立ちます

また、これらの評価には、カットオフ値や関連指標が多く報告されており、患者さんの移動可能な範囲や転倒リスクなどを予測することもできます

経験年数の短い理学療法士さんに役立つ情報になれば幸いです

1. 10m歩行試験

10m歩行試験は、10mの歩行路を歩いていただき、所要時間から歩行速度を算出する検査です

歩行速度は、歩行能力の代表的な指標として広く用いられています。歩行速度は、速度=距離/時間の式で求めることができます

例えば、10mを10秒で歩いた場合、歩行速度は10(m)/10(秒)=1.0m/sとなります

歩行速度には、様々なカットオフ値が報告されており、歩行速度から患者さんが移動可能な範囲を推定することができます

例えば、以下のようなカットオフ値があります。

  • 0.85m/s:制限なく屋外歩行が可能(An S, 2015)
  • 0.6m/s:制限付きで屋外歩行が可能(Perry J, 1995)
  • 0.4m/s:屋内歩行が可能(Bohannon RW, 1997)

10m歩行試験は、簡便で信頼性が高い検査です。歩行速度の変化は、歩行リハビリテーションの効果を評価するのにも有用です

2. 6分間歩行試験

6分間歩行試験は、6分間歩けるだけ歩いていただき、何m歩けたかを記録する検査です

6分間歩行試験は、歩行持久力や心肺機能の評価に用いられます。歩けた距離をメートルで記録します

6分間歩行試験にも、カットオフ値がたくさんあり、歩行距離から患者さんが移動可能な範囲を推定できます

例えば、以下のようなカットオフ値があります

  • 304m:歩行自立(Kubo H, 2020)
  • 250m:制限付きで屋外歩行が可能(Perera S, 2006)
  • 150m:屋内歩行が可能(Perera S, 2006)

6分間歩行試験は、信頼性や反応性が高い検査です

歩行距離の変化は、歩行リハビリテーションの効果を評価するのにも有用です。

3. Functional Ambulation Categories(FAC)

Functional Ambulation Categories(FAC)は、歩行自立度をカテゴリー化する指標です

FACは、0から5までの6段階で評価します

FACは、FIMの移動項目のようなイメージです

FACの評価基準は、以下の通りです。

  • 0:歩行不能
  • 1:歩行可能だが、2人以上の介助が必要
  • 2:歩行可能だが、1人の介助が必要
  • 3:歩行可能だが、見守りが必要
  • 4:歩行可能だが、階段や傾斜などで見守りが必要
  • 5:歩行可能で、階段や傾斜などでも見守りが不要

FACは、歩行自立度の変化を評価するのに有用です

リハビリ前後でFACスコアが改善した場合、歩行自立度が上がったことを意味します

4. Berg Balance Scale

Berg Balance Scaleは、56点満点のバランス検査です

Berg Balance Scaleは、14の動作項目をそれぞれ0から4点で評価します

Berg Balance Scaleは、バランス能力を測るだけでなく、カットオフ値から将来の移動能力や転倒可能性などを予測することもできます

例えば、以下のようなカットオフ値があります

  • 35点:6ヶ月以内の転倒(Fiedorová I, 2022)
  • 45点:歩行自立(Steffen T, 2002)
  • 50点:制限なく屋外歩行が可能(Donoghue D, 2002)

Berg Balance Scaleは、信頼性や妥当性が高い検査です。バランス能力の変化は、歩行リハビリテーションの効果を評価するのにも有用です

5. BESTest

BESTestは、108点満点のバランス検査です

BESTestは、36の動作項目をそれぞれ0から3点で評価します

BESTestは、6つのサブスケールに分かれており、バランス制御の異なる要素を評価します

BESTestは、得点を%に直して記録します

例えば、54点の場合、54/108点で50%となります

BESTestにも、カットオフ値が報告されており、将来の転倒可能性を予測することができます

例えば、以下のようなカットオフ値があります

  • 69.44%:1年以内の転倒(Sahin IE, 2019)
  • 55.56%:6ヶ月以内の転倒(Padgett PK, 2012)

BESTestは、信頼性や妥当性が高い検査です

バランス能力の変化は、歩行リハビリテーションの効果を評価するのにも有用です

BESTestの制限は、評価に必要な時間が長いことです

約35分かかります

そのため、簡易版のMini-BESTestやBrief-BESTestが開発されました

Mini-BESTestは、14の項目で構成され、約10-15分で評価できます

Brief-BESTestは、6の項目で構成され、約5分で評価できます

6. Fugl-Meyer Assessment Lower Extremity(FMALE)

Fugl-Meyer Assessment Lower Extremity(FMALE)は、下肢の運動機能をみる検査です

FMALEは、34点満点で評価します

FMALEは、下肢の分離運動ができるようになると点数が上がります

FMALEにも、カットオフ値が報告されており、屋外歩行が可能かどうかを推定できます

例えば、以下のようなカットオフ値があります

  • 21点:高レベルの移動(ほぼ屋外歩行)が可能(Kwong PWH, 2019)
  • 15点:低レベルの移動(制限付きで屋外歩行)が可能(Kwong PWH, 2019)

FMALEは、信頼性や反応性が高い検査です

運動機能の変化は、歩行リハビリテーションの効果を評価するのにも有用です

上記6つの検査を行うべき理由

上記6つの検査を行うべき理由は、以下の2つです

  • 性能が優れているから
  • 関連指標が多く報告されているから

性能が優れているから

検査・測定法の性能をみる指標には、信頼性・妥当性・反応性というものがあります

信頼性とは、同じ検査を繰り返しても同じ結果が得られるかどうかの指標です

妥当性とは、検査が測るべきものを正しく測れているかどうかの指標です

反応性とは、検査が状態の変化に敏感に反映できるかどうかの指標です

今回紹介した検査・測定法は、基本的に信頼性・妥当性・反応性が優れています

つまり、これらの検査・測定法を使っていれば、患者さんの状態を正確に判定できるということです

患者さんの現状を把握するために評価するわけですから、現状を正しく把握できる検査・測定法を使った方がいいですよね

関連指標が多く報告されているから

今回はカットオフ値をいくつか紹介しましたが、その他にも以下のような関連指標が研究を通して報告されています

  • SEM:標準誤差
  • MDC:最小検出変化
  • MCID:最小臨床的重要差
  • 規範的データ:正常値や平均値
  • カットオフ値:ある基準を満たすための閾値

これらの関連指標を使うことで、ひとつの検査・測定結果から幅広い解釈を行えるようになります

例えば、以下のようなことができます

  • SEMやMDCを使って、検査・測定結果の変化が測定誤差の範囲内かどうかを判断できる
  • MCIDを使って、検査・測定結果の変化が臨床的に意味のあるものかどうかを判断できる
  • 規範的データを使って、検査・測定結果が正常値や平均値と比べてどの程度のものかを判断できる
  • カットオフ値を使って、検査・測定結果がある基準を満たしているかどうかを判断できる

まとめ

この記事では、脳卒中歩行リハで標準的に行うべき評価を6つ紹介しました

これらの評価は、患者さんの歩行能力やバランス能力、運動機能などを客観的に把握するのに役立ちます

また、これらの評価には、カットオフ値や関連指標が多く報告されており、患者さんの移動可能な範囲や転倒リスクなどを予測することもできます

これらの評価は、性能が優れており、海外の研究論文で多用されています

エビデンスに基づく理学療法を行う上では、これらの評価を理解しておくと、海外の論文を読んだり、論文の情報を自分の臨床に活かそうとするときに役立ちます

評価に困っている理学療法士さんのお役に立てたら幸いです

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