近年、片麻痺患者の治療では、早期に歩行を復帰させることがトレンドとなっています
科学的な根拠も揃っており、ガイドラインでも長下肢装具の利用が推奨されています
そんな背景の中、脳出血・脳梗塞後の片麻痺患者に対して寝返り訓練が行われています
以下に、寝返り訓練を勧める理由をまとめました。
低負荷の運動である
寝返り練習は、最も重心の低い臥位から始める訓練です
そのため、抗重力運動として低負荷で始められる運動です。片麻痺者は選択的に運動をすることが困難になりますが、低負荷であれば運動の選択や切り替えの練習が容易に行えます
立位や歩行訓練と比較すると、立位歩行訓練は体幹の起立と抗重力活動を促進しやすい特徴があります
しかし、課題が過剰になりやすく、特に体幹は周囲の筋群を伸縮させず固定しようとして代償固定を強めてしまうことがあります
また、体幹が働いているはずだと思いながらも、実際には脚にばかり注目してしまうこともあります
歩行中の体幹の働きについては、可動域が少なく、イメージしにくい要素も多いです
さらに少し話は逸れますが、加齢に伴う変形は身体のどの部位から生じると思いますか?
過去に読んだ文献によると、日本人を対象とした大規模な前向き研究では、加齢による変形は膝や腰よりも胸椎でより早く起こることが報告されていました(※文献の詳細は見つけられませんでした)
胸椎の変形が早いということは体幹筋、特に体幹のコアユニットが機能的に働けず、体軸内の回旋も制限されていることを示唆しています
退行性疾患や脳卒中片麻痺の患者は、どちらも体幹の機能が制限される傾向があります
そのため、寝返り訓練の特徴として、体軸内の回旋運動を促進する効果が挙げられます
体軸内回旋を促進できる
寝返りは、背臥位(仰向け)を1相とすると、2相では上半身または下半身の体幹を側臥位(横向き)の形にする必要があります
そして、3相では反対側の体幹(上半身または下半身)を側臥位の形にします
この2相と3相の活動には、外腹斜筋と内腹斜筋の協調的な働きが求められます
この働き方は歩行と非常に似ています
立脚の段階では、初期には外腹斜筋が、中期には内腹斜筋が、後期には再び外腹斜筋が働きます
(三浦の筋電図的研究より)
頭部や上肢を先行して屈曲させる寝返りのパターンでも、上半身を起こすために外腹斜筋が働き、下半身を起こすために内腹斜筋が働き、下半身が前方に倒れ過ぎないように再び外腹斜筋が働きます
正常な歩行と寝返り時の体幹の活動は非常に類似しているようです
歩行訓練を単純に行うだけでは、上記のような反応が生じているかどうかは不明です
そのため、寝返り訓練の効果を評価する手法があると望ましいです
まとめ
まとめると、脳出血・脳梗塞後の片麻痺患者に対して寝返り訓練を推奨する理由は以下の通りです
- 低負荷の運動であり、選択的な運動練習が行える
- 体幹の活性化と体軸内回旋の促進が可能
- 寝返り訓練と歩行時の体幹の動きに共通点があり、寝返り訓練を通じて歩行への応用が期待できる
以上の理由から、寝返り訓練は脳出血・脳梗塞後の片麻痺患者の治療において有益であると言えます