脳出血、脳梗塞後の片麻痺では足関節の背屈制限が出現することもしばしばです
それらに対して一生懸命下腿三頭筋のストレッチをしたり
起きている間はずっと装具をつけて矯正して修正を試みる姿をよく見かけます
それでも上手く背屈制限に抑制がかからず苦労する場面も多いかと思います
そんな時の対策の一つとして踵に補高を勧める理由を記載していきます
底屈モーメントが大きくなり、前脛骨筋の活動性が高まる
足関節は踵に補高すると事実上底屈となります
これにより更に背屈制限が強くなってしまう恐れを感じるかと思いますがそれは誤解な事が多いです
実際、背屈制限があるにも関わらず普通の靴を履いていると足関節の底屈位である下腿三頭筋が常時収縮していることになります
拮抗する前脛骨筋が働く機会が少ないので相反神経抑制としての下腿三頭筋の抑制が少なくなります
補高を入れる事によってヒールコンタクト時の底屈モーメントが大きくなり前脛骨筋の伸張ストレスが大きくなり前脛骨筋の収縮が促進されやすくなります
それによって相反神経抑制が活動しやすくなり、結果下腿三頭筋の伸張が得られやすくなります
ここで相反神経抑制について簡単に伝えると 筋肉は拮抗しあう関係の筋肉同士で抑制しあう性質があります 肘を曲げる上腕二頭筋と肘を伸ばす上腕三頭筋(拮抗筋)を例にすると 肘を曲げるために上腕二頭筋が頑張ると拮抗する上腕三頭筋の筋緊張が抑制され伸びていきます この際に上腕三頭筋が抑制され伸びる性質がなければ上腕二頭筋による肘屈曲の動きに耐えられずに上腕三頭筋が損傷してしまいます 損傷しない為に拮抗する筋群の筋緊張を抑制する働きが相反神経抑制となります
自由落下が抑えられる
また歩行する際のイニシャルコンタクト、ヒールコンタクトでは踵が床につく直前に少し落下する傾向にあります
これは片麻痺の多くの患者で、より大きく見られる傾向です
踵が落下して地面に着くということはその際に生じる床反力は後方への成分ではなく垂直の成分が強くなります
状況によっては本来後方に床反力が生成される場面で前方に床反力が生成されていることもあります
そうすると先ほど出てきた足関節の底屈モーメントが小さくなり前脛骨筋の伸張刺激が減ってしまいます
この自由落下を減らす観点からも補高は有効と考えられます
体幹が活動的になり、末梢の筋緊張の亢進を予防できる
次に立位場面で考えていきます
足関節背屈制限のある方が足底を全て床につけ、膝を伸ばすと物理的に後方に倒れてしまいます
しかしそのようにならないよう、前足部に荷重をかけ、ほんのわずかに踵が浮く、もしくは浮きそうな立位姿勢をとることで代償したり
底屈制限側の骨盤を後方回旋させて代償します
これらの代償は共に体幹の活動を阻害してしまいます
前足部に荷重をかけることで体幹も前傾しないとつり合いが取れなくなり、体幹の抗重力方向の活動を阻害したり
骨盤が後方回旋し体幹が捻じれることで両側性の体幹の活動が阻害されます
その体幹機能が低下した結果、効率的な姿勢制御が阻害され
四肢末梢は姿勢を保つために過剰な努力、または過緊張を作ることとなります
それが足部の末梢、特に底屈の筋緊張を高める悪循環となってしまいます
この観点からも踵の補高は有効と考えられます
おわりに
脳卒中片麻痺患者の足関節背屈制限に対して補高をすると可動域制限を悪化させてしまう印象があるかもしれません
しかし神経学的な背景や実際の臨床場面においても踵に補高することで良い結果につながることが多くみられています
もちろん骨性の可動域制限などの改善はできませんが、脳卒中由来であれば変化は感じられるかと思います