結論:PTの給料が上がりにくいのは「構造」の影響が大きい
「患者さんのために丁寧にやっている」「後輩の相談に乗っている」「他職種の手も止めずに助けている」。
こういう動きができる人ほど、現場では信頼されます。ところが4〜10年目あたりで、ふと疑問が出てきます。仕事は増えているのに、給料が思ったほど伸びない。
ここで大事なのは、悩みを“個人の努力不足”に回収しないことです。
結論から言うと、PTの給料が上がりにくいのは、**単位制(時間の天井)**と、**収益の分配(運営コスト)**と、評価制度の設計という「構造」の影響が大きいからです。
構造が分かると、必要以上に自分を責めずに、現実的な打ち手を考えやすくなります。
理由①:疾患別リハは「単位×時間」で売上に天井がある
疾患別リハビリテーション料は、患者に対して20分以上の個別療法を行った場合を1単位として算定する、と明記されています(厚生労働省, 2008)。
つまり、収益は「単位=提供時間」に強く縛られます。時間は無限に増えません。
さらに、疾患別リハは患者1人につき1日合計6単位(条件により9単位)までという上限が示されています(厚生労働省, 2008)。
ここが“天井”です。
4〜10年目の伸び悩みが起きやすいのは、臨床が回り始めて単位が埋まる一方で、
- 記録や連携の負担
- 後輩対応
- 病棟や他職種の調整などの「単位になりにくい仕事」が増えるからです。頑張りの総量は増えているのに、単位制では売上が伸びにくい。この時点で、給与に変換されない努力が増えやすくなります。
理由②:「1単位185点=自分の給料」ではない
運動器リハビリテーション料(Ⅰ)は、理学療法士が行う場合1単位185点です(厚生労働省, 2019)。
この点数を見ると「自分が稼いだ」と感じるのは自然ですが、ここで整理したいのは次の点です。
**185点は“給与”ではなく、“売上の入口”**です。給与は“出口”。
その間に、医療機関を動かすための運営コストが挟まります。
運営コストには、たとえば
- 受付・会計・事務などの人件費
- 建物や設備の維持管理(修繕、減価償却、賃借料など)
- 水道光熱費、清掃などの委託費
- 電子カルテや予約システム等の保守・運用
- 事業主負担の社会保険料、税金
- 教育投資(研修補助、図書など)といった項目が含まれます。医療機関の費用項目は、医療経済実態調査の枠組みでも整理され、議論の基礎資料になっています(中医協, 2025)。
つまり、単位の売上はまず「場を維持するためのコスト」に回り、残った部分が人件費・投資・利益の原資になります。
この構造を知ると、「単位を積んでいるのに給与に直結しない」ことが起こり得る理由が、かなり腑に落ちます。
理由③:評価される行動と、給与が上がる行動がズレる
現場で評価されやすい行動は、だいたい次のようなものです。
- 患者さんに真摯に向き合う
- 後輩を助ける
- 他職種を助ける
- 主体的に動く
これは臨床の質とチームの雰囲気を支えます。とても大事です。
ただ、給与に反映されやすい行動は、別のレイヤーで決まることがあります。
多くの職場で給与に影響しやすいのは、
- ポスト(昇進)や役割の変更
- 評価制度に乗る成果(教育の仕組み化、標準化、業務効率化、安全管理など)
- 市場(領域・働き方)の選択といった「仕組み側」の要素です。
ここでズレが生まれます。
“いい臨床”や“いい支援”は重要なのに、給与の計算式に入りにくい。その結果、「頑張っているのに報われない」という感覚が起きやすくなります。
どうすればいい?給料を上げる「条件」を3つに整理
ここからは“救う”パートです。
PTの給料は上げられます。ただし、単位制の天井と運営コストの構造がある以上、条件を押さえる必要があります。
条件1:単価(報酬設計)が違う市場へ
同じPTでも、領域や事業モデルによって「収益の設計」は変わります。転職を考えるなら、忙しさだけでなく、単価・移動時間・キャンセルの影響・加算の有無などを確認するのが現実的です。
条件2:同じ職場でも“天井を上げる役割”を取る
単位を積むだけでなく、チーム全体の生産性や質を上げる仕事です。
例:教育の仕組み化、標準化、記録や連携の効率化、安全管理。
これらは「誰かがやらないと回らない」領域で、役割や評価に乗りやすくなります(中医協, 2025)。
条件3:燃え尽きない形で時間単価を守る
残業で手取りを増やすのは短期的には効果がありますが、長期的には消耗のリスクがあります。
「給与÷投入時間(時間単価)」で考えると、同じ年収でも納得感が変わります。続く形に整えることが、遠回りに見えて最短になることが多いです。
まとめ:構造を知ると、努力の置き場所が変わる
PTの給料が上がりにくいのは、努力不足ではなく、
- 1単位=20分以上、かつ患者あたりの単位上限がある(厚生労働省, 2008)
- 点数(例:運動器Ⅰ 185点)は売上の入口で、運営コストを経て給与が決まる(厚生労働省, 2019;中医協, 2025) という構造が大きいからです。
構造が分かれば、「努力しない」ではなく、努力の置き場所を変えるという発想に切り替えられます。4〜10年目の伸び悩みは、次のステージに上がるためのサインかもしれません。
