足底板インソールで“足元”から健康へ!―私たちが実感する装具治療の可能性と課題

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日々、理学療法の現場では、痛みや歩行の不安定さに悩む方々が多く訪れます。そんな中、足底挿板(インソール)は、ただの装具以上の意味を持つ治療ツールとして注目されています。ここでは、私が現場で実際に体験し、また最新の研究成果を参考に感じた足底挿板の魅力と課題についてお伝えしたいと思います。

1. 足底挿板の可能性―痛み緩和とアライメント改善

たとえば、ある理学療法士が作成したパッド貼付型足底挿板は、膝関節、足関節、足部それぞれで70~90%以上の改善率を示し、変形性膝関節症の軽度の症例では、歩行時の痛みが劇的に軽減されたと報告されています(源, 製作報告)。また、外傷後のアライメント不良に悩む若年スポーツ選手の場合、適切なアーチサポートによって下肢の内旋・外旋バランスが整えられ、膝周囲の痛みが解消された例もあります。これらの経験は、足元から全身のバランスや荷重分散を適切に誘導する足底挿板の有効性を実感させてくれます。

2. 疼痛部位に合わせた“オーダーメイド”の重要性

足底腱膜炎で悩む患者さんの場合、痛みの出る箇所は必ずしも同じではありません。ある研究では、踵部に疼痛が集中する場合は後足部が回外傾向にあり、逆に内側アーチ部の痛みを主訴とする場合は後足部が回内傾向にあることが明らかになりました(清水・安藤ら, 2022)。つまり、装具を製作する際には、患者個々の足部アライメントと疼痛パターンを十分に評価し、後足部の誘導を行った上で、荷重分散や緩衝材の選定に注意する必要があるのです。この手法により、治療効果の最大化が期待できると考えています。

3. 小児の歩行改善―成長過程に合わせた介入

また、足底挿板は小児の歩行安定にも大きな可能性を秘めています。小児は中枢神経や筋骨格系の発達途上であるため、どうしても歩行が不安定になりがちです。内側模状足底挿板を用いた研究では、内側部を5mm高くしたモデルが、足部の内転度を効果的に抑制し、足元の不安定さを改善する結果が得られました(浦出ら, 日小整会誌, 2008)。ただし、過度な補正は体幹部の代償的なブレを引き起こす可能性もあり、患者一人ひとりに合わせた微調整が求められます。

4. 外反母趾治療の最前線―屋内用足底板の効果

さらに、外反母趾の保存的治療においては、屋内用の足底板が注目されています。ある63歳の女性患者に対しては、外反母趾角が右38°から28°、左31°から27°と短期間で改善し、歩行時や靴装着時の疼痛が完全に消失する結果が示されました(鈴木・清水, 2009)。ここで特徴なのは、足袋内に挿入することで長時間装着が可能になり、普段の生活の中で自然な荷重分散効果が得られる点です。外部からの圧迫因子を軽減し、母趾の正しい誘導を実現することで、見た目の変形だけでなく、機能面の改善にも寄与するのです。

5. 注意すべき点―装具治療の落とし穴

一方、足底挿板使用時の立位バランスへの影響にも注意が必要です。研究によると、ある種のアーチサポート型インソールは足趾ピンチ力の低下や立位時の安定性低下を招く可能性が指摘されており、特に高齢者では転倒リスクが増加する恐れがあります(小林・清水, 2014)。そのため、装具を選定する際には、痛みや変形の改善と同時に、全身のバランスへの影響も慎重に評価することが重要です。

6. 私たちの現場から考える今後の課題

これまでの経験と研究成果を踏まえると、足底挿板治療は多くの患者さんにとって効果的なアプローチである一方、患者ひとりひとりの足部アライメント、疼痛部位、さらには生活環境などを総合的に判断し、オーダーメイドの治療計画を立てる必要があります。装具の形状や高さ、さらには使用環境に応じた柔軟な対応が、より良い治療成果へとつながるでしょう。今後、動作解析技術の進歩や材料開発の革新により、より精密な足底挿板作製が可能になれば、患者さんのQOL向上に一層貢献できると信じています。

読者の皆さんも、もし「足元」からくる不調や歩行の不安定さに悩まれているなら、専門家に相談しつつ、最新の治療法や装具の選択肢について情報収集してみてください。日々の生活において、ほんの小さな改善が大きな変化をもたらすかもしれません。

参考文献

  • 清水 新悟, 安藤 靖広, 伊藤 岳史, 花村 浩克. 「足底腱膜炎の疼痛箇所と後足部アライメントからの足底挿板製作指針」, ジャーナル フリー, 2022, 38巻3号, p.244-247. DOI: 10.11267/jspo.38.244
  • 鈴木 信介, 清水 新悟. 「外反母趾に対する屋内用足底板の有効性を示した1症例」, 愛知県理学療法学会誌, 20巻4号, 2009, p.174-177.
  • 浦出 英則 他. 「小児における内側模状足底挿板の高さと歩容の変化」, 日小整会誌, 17巻1号, 2008, p.74-77.
  • 小林 正典, 清水 勇樹. 「足底板インソールが立位バランス機能に及ぼす影響について」, 理学療法科学, 29巻4号, 2014, p.605-607.
  • 源 裕介 他. 「理学療法士が作成するパッド貼付型足底挿板における治療成績の傾向について」, 論文集(詳細は各学会誌等をご参照ください).
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