はじめに
脳卒中(脳梗塞や脳出血)は、血液供給が一時的または永続的に阻害されることによって、脳組織に損傷を引き起こす重篤な疾患です
脳卒中の後遺症として、片麻痺や運動機能の障害が起こることがあり、特に足関節の背屈不能は患者の生活の質を低下させる重要な問題の一つとされています
従来、この足関節の背屈不能は、主に錐体路(皮質脊髄路)の損傷によるものとされてきました
錐体路は、運動の意図を制御し、運動を調節する役割を果たす経路であり、脳卒中による錐体路の損傷は、運動制御の障害を引き起こす原因とされています
しかし、最近の研究により、足関節の背屈不能のメカニズムに新たな視点がもたらされつつあります
実際、足関節の背屈は、単に錐体路だけによるものではなく、他の神経回路や経路の関与も示唆されています
今回は関連する文献を紹介します
文献
こちら1)の文献は同側の皮質脊髄路および皮質網様体路の完全損傷を有する36名の患者を対象とした研究です
足関節背屈の運動機能と歩行機能を測定するために、患者はA群(回復不良)とB群(回復良好)の2群に分けられ、拡散テンソル画像パラメータとして、分画異方性、見かけの拡散係数、トラクト体積を求めたものになります
結果として以下の様なことがあがりました
・B群の対側皮質網様体路の体積はA群より大きかった(P < 0.05)
・対側皮質網様体路および皮質脊髄路の体積は、それぞれ対側足関節背屈のMedical Research Councilスコアと強い相関(r = 0.521)および中程度の相関(r = 0.399)を示した(P < 0.05)
結論として以下のことが挙げられています
・同側皮質脊髄路および皮質網様体路の完全損傷を有する脳卒中患者において、対側の足関節背屈弱性の回復は脳の経路と密接に関連していることを示唆しています
・対側皮質脊髄路は対側皮質網様体路よりも回復との関連性が高いことが示唆されました
終わりに
脳卒中片麻痺の足関節の背屈不能については、従来の視点だけでなく、損傷を受けていない側の脳の影響についても考慮する必要があると言えるでしょう
今後の研究によって、このメカニズムや治療法に新たな光が当たることが期待されます
参考文献
1)脳卒中患者における対側足関節脱力回復と皮質脊髄路および皮質網様体路との関係
2)脳卒中における麻痺側下肢の運動回復における対側皮質網様体路の役割: ミニ・レビュー