そもそも自主練が続かないのは“本人のやる気不足”だけではない
回復期で「自主練を増やしたい」と思う場面は多いですよね。ですが、続かない原因を“やる気”に寄せすぎると、現場はだんだん苦しくなります。回復期は、疲労・痛み・環境変化・不安が重なりやすい時期です。意思決定そのものが消耗していることも少なくありません。
だからこそ、自主練は「気分が乗ったらやる」ではなく、続く形に設計するのがスタッフ側の仕事になります(Winstein, 2016)。
継続する自主練は“3つまで”が基本
私のおすすめは、自主練のメニューを最大3つまでに絞ることです。増やせば増やすほど、未達成が増え、自己効力感(セルフエフィカシー)が削れます。逆に、少数で達成しやすい形にすると「できた」が積み上がり、継続の土台になります。セルフマネジメント支援は、ADLなどの改善にもつながる可能性が示されています(Parke, 2015)。
ポイントは、量は“追加”ではなく“埋め込み”で稼ぐことです。
生活に落とし込む:ベッド周り動作で“回数を稼ぐ”
回復期の強みは、病棟生活の中に練習機会がたくさんあることです。たとえば、
- 立ち座り:ベッド端座位→立位→座位を「本来1回のところ、2〜3回」
- 起き上がり:起き上がって座る流れを、手順確認として“もう1回”
- 移乗:車椅子へ移る前に、端座位での重心移動を数回追加
ここで大事なのは、筋トレのような「○回×○セット」を増やすより、場面の中に小さく足す発想です。患者さんにとっては“特別な宿題”ではなく、「いつもの動作の延長」になります。結果として、やる気の波に左右されにくくなります。
意志力を節約する:自主練は“午前中に済ませる”提案
「やる気に依存したくない。でも意思力も少しは必要」——この感覚、すごく分かります。そこで提案として使えるのが、午前中に自主練を済ませることです。
習慣形成介入が身体活動の“習慣化(automaticity)”を促すことは、メタ解析でも示されています(Ma, 2023)。また、行動を続けるには「いつ・どこで・どうやるか」を決める**行動計画(action planning)と、つまずきを想定する対処計画(coping planning)**が役に立ちます(Sniehotta, 2006)。
現場では、難しく言わずにこう落とすのが実用的です。
- 「午前のリハ前に、端座位の重心移動を3回だけ」
- 「朝食後に、立ち座りを2回追加」
家族を味方にする:面会時の“家族同席自主練”
可能なら、面会に来てくれる家族と一緒に行う自主練も有効です。家族が関わる追加練習(caregiver-mediated exercise)はCochraneレビューでも整理されており(Vloothuis, 2016)、家族媒介の追加練習(FAME)のRCTも報告されています(Galvin, 2011)。さらにeHealth支援を組み合わせたCARE4STROKEの試験もあります(Vloothuis, 2019)。
ただし、家族に求めるのは「監督」ではなく「伴走」です。具体的には、
- 安全確認(環境・手順・禁止事項の共有)
- できたことの承認(“やれた”の言語化)
- 記録の手伝い(チェック欄に丸を付ける)
この3つに寄せると、家族も負担が少なく、継続しやすいです。
可視化とフィードバック:歩数計・チェック表・称賛の声かけ
継続で自己効力感を育てるなら、「今どのくらいできているか」の可視化は強いです。歩数計(万歩計)は身体活動を増やしうることが、系統的レビューで示されています(Bravata, 2007)。
加えて、声かけは“詰問”を避けます。
×「なんでできてないんですか?」
○「少なくても継続できてるのはすごいです。昨日より“できた”が増えてますね」
動機づけ面では、脳卒中急性期後のMI(モチベーショナル・インタビュー)が気分面に良い影響を示したRCTもあります(Watkins, 2007)。
全然できない時の打ち手:ハードルを下げる/デメリットを共有する
どうしても“0”が続く時は、まずハードルを下げます。
- 「1日1回」ではなく「1回だけ」
- 「10分」ではなく「30秒」
- 「歩行練習」ではなく「立ち上がり1回」
それでも難しい場合は、「やらないと怒られる」ではなく、やらないと何が困るかを共有します。例えば、廃用の進行、退院後の生活動作の負担増など。ここは脅しではなく、患者さんが選べるように“材料”を提示する感覚が安全です(Winstein, 2016/日本脳卒中学会, 2025)。
引用文献
- Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016.
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会(編集). 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕. 2025.
- Vloothuis JDM, Mulder M, Veerbeek JM, et al. Caregiver-mediated exercises for improving outcomes after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016;12:CD011058.
- Galvin R, Cusack T, Stokes E. Family-Mediated Exercise Intervention (FAME) therapy following stroke. Stroke. 2011.
- Vloothuis JDM, Mulder M, Nijland RHM, et al. CARE4STROKE: caregiver-mediated exercises with e-health support… PLoS ONE. 2019;14(4):e0214241.
- Ma H, Wang A, Pei R, et al. Effects of habit formation interventions on physical activity habit strength. Int J Behav Nutr Phys Act. 2023.
- Bravata DM, Smith-Spangler C, Sundaram V, et al. Using Pedometers to Increase Physical Activity and Improve Health. JAMA. 2007;298(19):2296–2304.
- Sniehotta FF, Schwarzer R, Scholz U, Schüz B. Action plans and coping plans for physical exercise. Br J Health Psychol. 2006.
- Watkins CL, Auton MF, Deans C, et al. Motivational interviewing early after acute stroke: a randomised controlled trial. Stroke. 2007;38(3):1004–1009.
