はじめに
足は、歩行や走行、さらには片脚立位といった不安定な状態での体重支持など、私たちの体を常に支える重要な器官です。 近年、複数の先端研究により、足内在筋や外在筋の解剖学的特徴、筋形態、そしてそれらがもたらす力学的効果が明らかになってきました。 これらの知見は、単に数値データとして残るだけでなく、実際の運動療法やリハビリテーションに応用できるヒントを提供しています。
筋肉の力学とその評価の進化
最新の研究(Otani et al., 2024)は、足趾の中でも特に第1中足趾節関節の屈曲トルクが、内在筋の働きと密接に関連していることを示しています。 興味深いのは、この関係が足首の位置、すなわちニュートラルかプランターフレックス状態かで変化する点です。 足首がプランターフレックス状態にある場合、内在筋の貢献がより明確に評価できるとされ、これが臨床現場での評価指標となる可能性を示唆しています。 つまり、正しい足首の位置でのトルク測定は、内在筋の実力を知る上で効果的なアプローチとなり得るのです。
足部の運動療法とその実践的アプローチ
また、日本臨床スポーツ医学会の研修講演(渡邉耕太, 2023)では、内在筋と外在筋の働きに基づいた新しい足趾運動療法が紹介されています。 足部は、外在筋によって大局的な動きを、内在筋によって微細かつ安定した動きを実現します。 講演では、FHL(長母趾屈筋)の解剖学的バリエーションやFHL分枝テストを用いた評価、そして足底方形筋の役割について詳細に検討されています。 さらに、足趾の屈曲様式に応じて内在筋と外在筋の活動が異なることから、ターゲットを絞ったトレーニング法―たとえば、MTP屈曲エクササイズやショートフットエクササイズ―が開発され、実際にスポーツ障害の予防やリハビリテーションの現場で効果が認められ始めています。
このような運動療法は、従来の漠然とした足趾のエクササイズとは一線を画し、解剖学的知見に裏付けられた的確な筋肉ターゲティングを行うことで、より効果的な筋力増強と神経筋制御の向上を実現します。 具体的には、足趾の各関節や筋の活動を意識したエクササイズにより、足の局所安定性が強化され、これが全体のバランス制御に寄与することが期待されます。
バランス制御と足の筋形態の関連性
一方、Zhang et al. (2017) の研究は、足内在筋の形態、特に母趾外転筋の厚みや断面積と、片脚立位時の重心揺動(COPシェイ)との関連性を数値的に明らかにしました。 内在筋が発達していれば、足全体の安定性が向上し、重心の微細な揺れを効果的に抑制できるため、転倒リスクの軽減やスポーツ中の安定性向上に直結するのです。 これにより、足内在筋のトレーニングは単なる局所的な筋強化に留まらず、全身のバランス維持やパフォーマンスアップにおいて非常に重要な役割を果たすことが示されました。
統合的視点がもたらす実践的意義
これらの研究成果は、解剖学的な視点と機能的な評価、そして臨床応用の各面が互いに補完し合うことで、足の運動機能の全体像が浮かび上がることを示しています。 すなわち、足の内在筋が単に局所的な筋力だけでなく、足趾の屈曲トルク(Otani et al., 2024)やバランス制御(Zhang et al., 2017)において重要な役割を担っていること、そしてこれらの知見に基づいた運動療法(渡邉耕太, 2023)の実践が、スポーツ障害の予防やリハビリテーションに革新的なアプローチを提供する可能性があるということです。
運動やリハビリテーションの現場では、単に「大きな筋肉を鍛える」だけではなく、足の中にある微細な筋肉の役割や、その筋肉が持つ形態学的特徴を重視したアプローチが求められます。 たとえば、足首の位置や正確なトルク測定、さらには解剖学的な分枝構造を意識することで、より効果的な内在筋の評価が可能となります。 そして、これを踏まえたエクササイズプログラム(MTP屈曲運動やショートフットエクササイズなど)は、効果測定もしやすく、実践的なフィードバックが得られる点で大きなメリットを有しています。
おわりに
日常生活から競技レベルのパフォーマンスに至るまで、足の安定性は多くの場面で極めて重要な要素です。 内在筋と外在筋が協調して働くメカニズムに着目し、解剖学的な根拠に基づく評価とトレーニング手法を取り入れることで、私たちはこれまで以上に足の機能を引き出すことができるでしょう。 さまざまな研究成果が示す通り、足部の微細な動きとその制御は、全身のバランスや転倒予防、スポーツ障害のリスク低減に直結しています。 これからの運動療法やリハビリテーションは、こうした統合的なアプローチのもとで進化していくことが期待されます。
参考文献
- Otani, R., Nishikawa, H., Saeki, J., & Nakamura, M. (2024). Relationship Between the Flexion Torque of the First Metatarsophalangeal Joint and Intrinsic Foot Muscles Depends on the Ankle Joint Position. Foot Ankle Orthop, 9(3), 24730114241266847. doi:10.1177/24730114241266847
- 渡邉耕太. (2023). 足の内在筋・外在筋の働きと新しい運動療法. 第33回日本臨床スポーツ医学会学術集会 教育研修講演2.
- Zhang, X., Schütte, K. H., & Vanwanseele, B. (2017). Foot muscle morphology is related to center of pressure sway and control mechanisms during single‐leg standing. Gait & Posture, 57, 52-56. doi:10.1016/j.gaitpost.2017.05.027