はじめに
みなさんは「体幹」という言葉を聞いたことがありますか? 体幹とは、腰や背中、腹部など、体の中心部分を指します。体幹は、腕や脚で動くときの土台となる部分であり、バランスを保つためにとても重要です。
一方、片麻痺(かためひ)は、脳の障害(たとえば脳卒中など)によって、体の片側だけが動きにくくなる状態をいいます。片麻痺の人は、片側の腕や脚だけでなく、体幹も上手く使えなくなることがあり、その結果、バランスが取りにくくなったり、歩くときに不安定になったりするのです。
体幹の不安定性がもたらす影響
体幹がしっかりしていると、体全体のバランスが安定し、日常の動作がスムーズに行えます。しかし、片麻痺の場合、体の片側に問題があるため、体幹も正しく働きにくくなります。 たとえば、階段の上り下りや、方向転換といった動作のとき、体幹のバランスが崩れると転倒のリスクが高まるかもしれません。
また、体幹の不安定さは、片麻痺の症状そのものだけでなく、日常生活全般に影響を与えるため、「より安全に、快適に生活する」ために体幹のケアが重要だと考えられています。
体幹を強くするリハビリテーション
近年、医療やリハビリの現場では、体幹のバランスを整えるための運動やトレーニングが注目されています。以下に、初心者にもわかりやすいポイントをいくつかご紹介します。
1. 選択的な体幹運動で安定感を取り戻す
体幹の動きを意識して、特定の筋肉を集中的に鍛える方法があります。 Manjunathaら(2019) の研究では、「選択的体幹運動」が片麻痺の患者さんの体幹バランスを改善する可能性が示されています。簡単な例として、座った状態で上体を左右にゆっくり回す動作などがあり、これにより体幹の柔軟さと強さがアップするのです。 (Manjunatha, H., Paul, J., & Mohan, M.R., 2019)
2. 回旋運動で右と左のバランスを整える
体幹を回転させることで、体の左右のバランスを改善する方法もあります。 Arunachalam Ramachandran & Vasanthi (2016) の研究では、回旋運動を取り入れることで、麻痺のある側の下肢へ体重がうまく伝わるようになり、歩行が安定する効果が報告されています。 (Ramachandran, A., & Vasanthi, R., 2016) 具体的には、立った状態で体をゆっくり回すエクササイズなどがあり、これを続けることで左右のバランスが改善されると考えられます。
3. コアスタビリティトレーニングで全体の耐久力をアップ
子どもを対象としたリハビリテーションの現場では、Samah Attia El Shemy (2018) の研究のように、コア(体幹)の持久力を高めるトレーニングが行われています。 これにより、歩行や姿勢が安定し、日常生活の動作がスムーズになるため、体の中心がしっかり支えられる感じが得られるのです。 (El Shemy, 2018)
4. ウェアラブルセンサーによる客観的なチェック
技術の進歩により、体の動きをセンサーで測ることが可能になりました。 Junseok Leeら(2018) の研究では、ウェアラブルの慣性センサーを使い、片麻痺の歩行パターンを正確に捉える試みが行われています。 これらのデバイスは、実際にどれくらい体幹が安定した動きをしているのか、また改善の様子を具体的に知る手助けとなり、リハビリテーションの効果を数値で確認できるというメリットがあります。 (Lee, J., Park, S., & Shin, H., 2018)
5. 神経発達療法による明確な訓練
最近では、脳の働きを改善する神経発達療法という方法も活用されています。 Raghumahanti Raghuveer et al. (2024) のプロトコルは、この療法が筋の緊張を調整し、体幹のバランスを回復するのに効果があるかもしれないと期待されています。 (Raghumahanti Raghuveer, et al., 2024) このアプローチは、リハビリのプログラムをより個々の患者さんに合わせるための新しい試みとして注目されています。
まとめ
片麻痺の方にとって、体幹の安定性は単に動きやバランスを丸ごと支える大事な部分です。体幹がしっかりしていれば、歩いたり立ったりする動作がより安全になり、日常生活の自信にもつながります。 ここで紹介したリハビリテーション方法(選択的運動、回旋運動、コアトレーニング、ウェアラブル機器の活用、神経発達療法など)は、どれも体の中心を強化し、全体のバランスを整えるための工夫です。 これらの方法は、難しそうに見えるかもしれませんが、初歩的な動作から始め、少しずつ慣れていくことで確実に効果が現れると研究も示しています。
日々のトレーニングを通じて、少しずつ体幹の安定性が取り戻されると、転倒のリスクが減ったり、安心して歩けるようになったりします。そして、それは生活の質を向上させ、前向きな気持ちにもつながるのです。
参考文献
- Davies, P. (1990). Problems Associated with the Loss of Selective Trunk Activity in Hemiplegia. → 体幹の動きの喪失がどのようにバランスに影響を及ぼすかを示しています。
- Peng, Y. (2013). Torso Hemiplegia Mode Observation. → 体幹の異常な動きが歩行などにどのような影響を与えるかについての観察結果です。
- Raghumahanti Raghuveer, Hullumani, S., Bansal, K., et al. (2024). Explicit training through neurodevelopmental therapy improves tone and postural control in hemiplegic stroke-A Systematic review protocol. → 神経発達療法を用いた体幹リハビリの効果についての最新の取り組みを示します。
- El Shemy, S. A. (2018). Trunk endurance and gait changes after core stability training in children with hemiplegic cerebral palsy: A randomized controlled trial. → コアトレーニングが歩行能力や持久力向上に役立つことを確認しています。
- Manjunatha, H., Paul, J., & Mohan, M.R. (2019). Efficacy of selective trunk activity in improving trunk control in hemiplegic patients. → 選択的な体幹運動が体幹バランスを整える可能性について述べています。
- Lee, J., Park, S., & Shin, H. (2018). Detection of Hemiplegic Walking Using a Wearable Inertia Sensing Device. → ウェアラブルセンサーを用いて歩行パターンを客観的に評価する手法について記述しています。
- Ramachandran, A., & Vasanthi, R. (2016). Trunk Rotation Training as a tool in improving weight transmission through the paretic lower limb in hemiplegia. → 回旋運動が麻痺側下肢への体重伝達にどのように効果を発揮するかを示した研究です。